2 / 2

ベリーショートストーリーズ 館林見晴編

始まりの時

 “卒業式の日に女の子から告白して出来たカップルは永遠に幸せになれる”
というきらめき高校の伝説。
 その伝説のお陰で、今までちゃんとした勇気を出せなかった私が、ようやく勇気を出す事が出来た。
 ぶつかる事しか出来なかった私の憧れの人、高見公人君に告白すという勇気を…。
 そして、諦めていたのに、見事カップルになる事が出来た。告白出来ればそれでいいと思っていたから、すごく嬉しい。
 記念すべき初デートを3月3日にしてもらったから余計に。
 その日は私の誕生日だから。

 当日。
 私は朝早くから準備をしていた。少しでも可愛い私でいたくて何回も鏡とにらめっこ。百人相する私をあきれて見てるけど、気にしない。
 すごく大切な日だからこそおしゃれをしたいから。
「見晴~。そろそろ時間よ。約束に遅れるけど、いいの?」
 お母さんの言葉に、慌ててお気に入りのポシェットを持つ。
“バタバタ”
 階段を駆け下りると、取りもとりあえず、家を飛び出した。
「いってきまーす」
「気をつけるのよ」
 お母さんの言葉に見送られながら、駅前に走って向かう。
 初めてのデートに遅刻なんて、嫌だから、人の目も気にしない。
 でも、待ち合わせ直前でスピードダウン。彼には格好悪い所は見せたくないから。
 髪の毛を気にしながら、待ち合わせ場所に少し早足で急ぐ私の目に、何回も目にした人を待つ彼の姿が映った。
 嬉し涙が出てくるのを抑えながら、彼の元に急ぐ。
 彼の待ち合わせ相手になるのが、高校に入ってからの私の夢だったから。
「お持たせ」
 正面に立ってそう言う私を、彼は笑顔で迎えてくれる。
「いや、丁度だよ。今日はどこに行きたい?」
「うーんとね。ウィンドーショッピングしたいんだけど、いいかな?」
 男の子は苦手かも知れないけど、ゆったりした時間を二人で過ごしたくてそう言った私に、彼は嫌がらず
「具体的にどこに行きたい? 館林さんはどういうのが好き?」
と聞いてくれる。
 だから、素直に私は答えた。
「ファンシーショップがいいな」
と。
「ファンシーショップだな。じゃあ、行こうぜ」
 何気なく彼が私の手を握りしめてくれたので、私も握り替えし、二人で手をつないでファンシーショップに向かった。
 たどり着いたファンシーショップは当然の事ながら、女の子の園だったけど、彼は気にせずに私と一緒に見てくれた。
 それどころか探してくれたりもする。
 その中で私が気に入ったのは、ハート形の錠前とそれにあう鍵のセットのキーホルダー。それと、大きなコアラのぬいぐるみ。
「今日、館林さんの誕生日なんだろ? 買ってあげるよ」
と話していない筈なのに、彼はそう言ってその二つを買ってくれた。
 すぐにどうしてか聞きたかったけど、ファンシーショップを出て、喫茶店に入るまで私は我慢した。
「どうして、私の誕生日を知っているの?」
 注文してからすぐに聞いてきた私に、彼は苦笑しながら教えてくれた。
「伊集院が教えてくれた」
と。
(伊集院君が…)
 伊集院君と言えば、私の正体を好雄君に知られないようにしてくれた人だけど、何で彼が…。
 そう思った時、思い浮かんだのは卒業式前に彼が言った言葉。
「残念だが、彼は君が気になっているらしい。君にふさわしい相手と認めたくないが、がんばりたまえ。伝説の樹が君を守ってくれるよ」
 その言葉もあって、私は彼に告白出来た。
(でも、どうして彼が…)
 再び疑問はよぎるけど、もう考えないようにする。
 目の前で黙りこくってしまった私を心配してくれる彼と、わざわざ私の誕生日を彼に教えてくれた伊集院君のために…。
「館林さん、大丈夫?」
 心配そうに聞いてくる彼に笑顔で答え、キーホルダーの鍵の方を彼に渡した。
「これ、いいのか?」
「うん。最初から分けて持つつもりだったから。私の心は高見君の物だという証に…」
 はっきり言う私に、目に見えて公人君は照れる。
 でも、しっかり受け取ってくれたから、嬉しい。
 受け取ってくれるという事は私の気持ちをわかってくれているという事だから。
「お待たせしました。イチゴショート二つと紅茶です」
 タイミングよく運ばれてきたケーキにほっとしながらも、公人君は目を開く。
 思ってもいないでかさのケーキに驚いている公人君に、心の中で笑ってしまう。
「館林さん、少し手伝って貰ってもいいか?」
「いいけど、食べられるんだったら、いいからね」
 季節にしか食べられないケーキに私は満面の笑みを浮かべてチャレンジする。
 おそるおそる公人君もチャレンジしていたけど、結局一人で食べてしまった。
「食べれたでしょ?」
「そうだな。見た目より甘くないんだな」
「うん。だから、人気商品なんだよ。遅くに来ると当たらない事もあるんだ」
「へえ、じゃあ、早く来ないとな。館林さんはいつもここに来てるの?」
 興味を示したらしい公人君に心の中でガッツポーズする。
 友達の中では彼氏とケーキを食べに来なくてもいいという子もいるけど、私はどちらかというと食べに行きたい方だから。
「他にも行ってる所あるから、今度連れて行くね」
「ああ、楽しみにしている。じゃあ、そろそろ帰るか?」
 腕時計の時間を見てそう言った彼に、ちょっとふくれてみせる。
「ええ~。もう?」
「最初から遅いとまずいだろ? また会うようにするから今日は終わりな」
 諭すように言ってくる公人君に私は大人しく同意する。
 本当はわかっていたけど、甘えたかっただけ。今までこういう風に甘えられる相手がいなかったから。

 喫茶店を出、日暮れ近い町並みを公人君と歩く。
 今日一日だけで、いくつも公人君としたかった事が出来た。
 これからも公人君と色んな事が出来る事が嬉しくて、思わず言ってしまう。
「好きだよ、公人君」
 思わず立ち止まってしまった公人君に、とびっきりの笑顔を向けると、きびすを返して、私は家に向かって走りだした。
 照れてしまったのと、気持ちが嬉しすぎて。
 そして、心の中で公人君に礼を言う。
(素敵な忘れられない誕生日をありがとう)
と。

END

2016年8月12日作成
2016年8月12日更新
2 / 2