紙吹雪と桜吹雪に差異は無い。

紙吹雪と桜吹雪に差異は無い。
 時々、伊集院をからかいたくなる。
自分を遠ざけるという不可思議な感覚を味わう為に。

時々、伊集院に辛くあたってしまう。
自分を確認するという傲慢の為に。

時々、伊集院を裏切る。
自分が伊集院を必要としていることを確認する為に。

何故、そんなことをするのかって? だってお前はいつだって俺には 優しいから…。だから時々壊したくなる。それだけ。

なんて屈折した気持ちを抱えていれば、自分を背徳者と呼ぶことができるなんて考えているのだろうか?
相手を傷つけることで、喜びを得るマニアックな楽しみ方をしているのだろうか?
そんなふうにしか気持ちを表現できないんだって居直りたいだけなのだろうか?
それでも、自分を見続けてくれるか試しているのだろうか?
なんにしても、どちらにせよ、最悪だ…。

何故今日は、晴れているのだろう。
おかしい。
こんなはずはない。

何故今日は、こんなに清々しいのだろう。
絶対に間違っている。
こんなはずではない。

身体の中心から、指先まで。
消える感覚が欲しい。
溶けてしまうように。

太陽は沈んでいくはずだ。
気持ちを沈ませようとするように。

次の夜明けがこないようにと祈る。
月がずっと空に立って嘆願する様を見たい。

そして、世界が止まるようにと。

でも太陽と月は、世界は、そんなの知ったことじゃないと動き続けているんだ。

 

校庭の隅にある老木。根元に寝そべり上を見上げる。この角度で空を望むと老木の枝が境界線のように見えて、まるで心を隔てる境のような気がして結構気に入っているのだ。

雲も、空気も、太陽さえも。
この風景の中ではこの線を境にして動く。越えていくしかない。
……。

そんな感覚屈折していると思う。当然自覚している。

指をかざして、黒い線に線を付け足してみた。意味なんて無い。ただ四本の指が檻のように見えるかなと思っただけ。

別に檻の中に入りたいわけではない。
いや。いやいやいや。入りたいわけはない。そんなことがあろうはずもない。そうだろう?
でも、とっくに檻の中に入れられているとしたら…。

それは、それで…。

でも、そうやってありえない空想にしか現実感を感じ取れないなんて、我ながらどうかしている。
今、頬を撫でていく風はこんなにも現実感がないというのに。

目線を上から横へ変える。境界線も消える。

隣には髪をほどいた伊集院、文庫本を読んでいる。逆光でタイトルはわからない。影の中でゆっくりと息づくのを感じるだけだ。
伺えないけれど、きっといつもみたいに、女だと知るまでそれに気づかなかったなんて嘘みたいに、美しい顔をしてそこにいるのだろう。

「なあ伊集院」

「なんだね」

伊集院が静かに本を閉じこちらへ顔を向ける。声は男モードだ。ちょっとガッカリしてみたり…。
こいつが女だったなんて驚きは今でもある。けれども、何よりも、そんなことより、やっぱりお前は綺麗だよ。信じられないくらい。

一体…。そこにいるお前は現実か?

「寒いな…」

「ああ。真冬だからね」

「なんでお前はそんなところで本を読んでいるんだ?」

「そっくりそのまま君に返そう」

「俺か? 俺はこうやっているとお前が隣にいてくれるかなって思ったんだ」

「な、何を言っているのかね君は!!」

あはは。
影が赤くなったような気がする程に躊躇な反応だな。

大文字を小文字に、小文字を大文字に変換

でも、何故だろう?
なぜ伊大文字を小文字に、小文字を大文字に変換集院はこんなにも俺の隣にいてくれるんだ? それこそが、現実感の無いことだよな…。

時々、伊集院を息を忘れるほど見つめていることがある。
時々、伊集院にどうしても触れたくなってしまう。
時々、伊集院を滅茶苦茶にしてしまいたくなる。

まあ、脳内の中でひたひたと進行する暗い番組の中だけだけれど。
妄想とも言うけれど…。

結局、気持ちの全てが伊集院から離れられないんだよね。

だからこそ、わかっているんだ。言うほどのこともないことなんだ。
自分がとっくに檻の中に入ってしまっているって。気づかないふりをしているだけだって。

伊集院という檻に入っているんだ。老木の枝を見るまでもなくね。

自分に呆れながら。もう一度枯れ枝に目線をやってみた。あれ? この枝、芽吹いている。

「この木って桜だっけ?」

被さっている老木。確か桜だったはずだ。

「そうだね。この学園にはいくつかあるが、僕はここの桜が一番好きだ」

「やっぱり桜だったんだ」

「?」

「見たいなぁ桜…」

別にどうということもないけれど。桜吹雪だったらこんな境界線も消してくれるんじゃないかって。

全てを包み隠してくれるんじゃないかって。

…思っただけだ。隠しても意味ないけれど。

「見せてあげようか」

なんだって? いくらお前でもそんなことはできないだろう。
ひょっとして、伊集院家開発の薬やら何やらで咲かせるとか…。二十四時間光を浴びせて狂い咲きさせるとか…。

むむ。実際やりそうで怖いぞ。

「あれ? 何やってんの」

ビリ、バリと紙を裂く音が響く。

嗚呼、見る間に文庫本がゴミへ。

えっと…。タイトルは…。

『ヰタ・セクスアリス』

…。

……。

「何を読んでるんだ。何を」

一応突っ込んでみた。

「ヰタ・セクスアリス」

平然と答えやがる。

「それ面白い?」

一応聞いてみた。

「ええ」

しかも面白いらしい。

でも、なんだかな。嬉々として文庫本を破く姿も可愛いなあと思ったり…。変態ちっくかな…。

「できた♪ ねえ、立って立って」

いきなり声が女モード…。ちょっと嬉しかったり。

「はいっ」

伊集院がそのまま、細切れになった紙片を空へと抛った。
風に舞いヒラヒラと。ヒラヒラと。たゆたゆと。ゆらゆらと。

「桜吹雪だ…」

本気でそう思った。
現実味のない空想よりも、よっぽどリアルだって…。

風が頬を撫でるのを「感じる」

「ははは」

時々、伊集院に優しくなる時がある。
時々、伊集院に何かをしてあげたくなる。
時々、伊集院が自分よりも大切だと考えることがある。

こんな気持ちって勝手かな?

でも。

だから伊集院。お前のことが好きなんだ。

 


作者より

 ああ、もう。わけわかんないです。
わかったのは、私が一人称を書けないということだけです。
なのかさま、遅れて本当に申し訳ありませんでした。