雑記

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True Loveにはまだ早い
 8月22日。  自分の誕生日。
 高校に入るまでその日は夏休みにあるだけで後は何も気になる事のない日だった。
 それが高校に入ってから同じ日に生まれたというのに環境が違うというだけで差をみせつけられる奴が出てきた。
 奴の名は伊集院レイ。伊集院家の一人息子だ。
 あいつは俺からみてうらやましい生活をしてると思うんだが、何か奴がそれを楽しんでるとは思えない時があるんだ。それが一番気になるのは嫌味を言ってきてる時。嫌味を言ってる顔に何か影がある気がしてならないんだ。女の子に囲まれてる時も心から楽しんでるように見えないしな。
 といって奴に何の悩みがあるかと考えてもさっぱり検討もつかないが……。俺から見ればうらやましいとしか思えない生活を奴はしてるわけだからさ。
 理由はわからなくても気になるのは確かだから、俺は冷たい言葉を投げつけられるのを承知で奴に電話をかけつづけてる。我ながら何を考えてるかと思うけど、ほおっておけないのもまた事実だから。
 そんな事もあったから去年は奴の誕生パ―ティにも行ってみた。結果はその差を見せつけられただけだったが……。
 だから、今年は最初から行かないつもりでいる。女の中で男が一人というのも嫌だし、何よりも一年に一度の大切な日にまで嫌な思いはしたくないから。気にならないと言えば嘘になるけど、それよりもやはり自分の思いの方が大切だと思うから。

〈ツゥルルル、ツゥルルル〉
 考え事をしてると、電話が鳴った。
「もしもし」
『やあ、庶民。元気にしてるかね?』
 噂をすれば影だというが、今までになかった本人からの電話に俺はマジで驚いた。
「……何だよ、伊集院。そんな事言うために電話をしてきたのかよ」
『いや、明日の僕の誕生日に君が来るのか知りたくてね。去年は来てくれたみたいだからね』
「今年は行かねぇよ。お前もその方がいいだろ? きれいな花の中にむさくるしいのがいるよりは、さ」
 そう言った途端、奴は黙った。そして、なぜか少し悲しげな調子で
『そうだね。その方が僕もいいよ。じゃあ、忙しい所失礼したね』
と言い、俺が口を開く前に電話を切ってしまった。
「何だったんだ、あいつは……。まさか、俺に来てほしかった……な訳ないよな? もし……そうだとしたら、何で俺に来てほしいんだ? 俺と違って祝ってくれる女の子は何人もいるのにさ」
 思わずつぶやいてしまった一人言。
 でも、本当にそうだ。わざわざ俺に電話してくる理由なんて俺には想像もつかない。電話をしてもいつも冷たい嫌味な態度しかとらない奴なのに……。
 まあ、明日になれば何かわかるだろ。何でそう思うか俺もわからないが、そう思い、少しもやもやした気持ちを抱えたまま眠りについた。

 翌日。俺は店が開くのを待って街に買い物に出かけた。
 行動を自分で起こしながら何でそんな事をしてるか不思議で仕方なかった。パ―ティに行くつもりがないくせに自分の誕生日に、人のしかも奴の誕生日プレゼントを買いに行こうとしてるのだから。
 頭の疑問符を自分で増やしながら、割と長い時間をかけて奴の誕生日プレゼントを選んだ俺は、他はとごにも行く事なくまっすぐ家に戻った。
 家の前で丁度出かけようとしてる詩織に出会った。
 普段よりもしゃれた格好をしてる所をみると、今年も奴の誕生ポ―ティに行くのだろう。悲しい事実なんであまり考えたくないが……。
「あらっ今、帰りなの?」
 俺の心を知ってか知らずかわからないが、不思議な顔をして詩織が聞いてきたので、俺は聞き返した。
「ああ、そうだけど、何かおかしいか?」
「だって、今、家に行ったら出かけたと言ってたから今年もてっきり行ったのかなと思って」
 詩織のその言葉に去年の奴のパ― ティで会った事を思い出した。そのために落ち込んだ事も……。
「今回はやめだよ。自分の誕生日にまで嫌味を聞きには行きたくないからさ」
 わざと明るい声を出した俺を詩織は心配そうに見た。
「あなたがそう決めたならいいけど……。じゃあ、私は行くね。友達と待ち合わせをしてるから」
「ああ、気をつけてな」
 そう言って、手を振る俺に思い出したように詩織は
「あっ、そうだ。おばさまにあなたへのプレゼントを渡しといたから受け取っておいてね。誕生日おめでと♪」
と言うと、俺が返事を返す前に走って行ってしまった。
(何だったんだ、今のは。でも、詩織が俺にプレゼントをくれるなんて何年ぶりなんだろう)
 今の出来事を思い返しながら俺は家の中に入った。
「ただいま〜」
「おかえり。今、詩織ちゃんが来てたのよ」
 にこにこ顔の親はそう言いながら包装紙に包まれた箱を俺に渡してきた。
「これ詩織ちゃんからの預かり物だよ。腕によりをかけてごちそうを作ってあげるから楽しみにまってなさいね」
「ありがとう。腹をすかして待ってるよ」
 俺は詩織からのプレゼントを受け取ると、階段を上り部屋に入った。
 ゆっくりする暇も惜しんで、すぐに開けたプレゼントの中身は
〈誕生日おめでとう♪ 最後のインタ―ハイ、お互いにベストをつくそうね〉
というメッセ―ジカ―ドと共に入ったバスケシュ―ズだった。
 こんな高い物いいのかな?と一瞬思ったが、今の使ってる物がぼろぼろになってたので、ありがたくもらう事にした。
 後でちゃんと礼を言っておかないとな?と思いながら、残りの時間を勉強に費やす事にした。そうしないと、余計な事、パ―ティの事を考えてしまいそうだったから。
 それでも考えてしまっていたが、どうにか終了時間まで家にいる事が出来た。
 しばらくして、下からおいしそうな匂いがしてきたので、そろそろ晩飯かな?と思った時、玄関のチャイムが鳴った。
(誰だろ? こんな時間に。近所の回覧板かな?)
と思ってると、下から声をかけられた。
「友達が来てるから、上がってもらうわよ」
 誰だ?と思いながらも、どうせ好雄だろうと思い、何も考えずに
「わかった」
と答えた。
 しばらくして入ってきたのは予想に反して伊集院だったので、俺は驚きの余り嫌味を言っていた。
「あわれな庶民に愛の手かよ。夜には偉いさんとか来るんだろ? いなくていいのかよ」
 俺のその言葉に伊集院は悲しそうな表情を浮かべたかと思うと、すぐに隠し
「聞く所によると、君も今日が誕生日らしいからねぇ、さみしい誕生日を過ごしてると思ってわざわざ来てあげたのだよ」
と言ってきた。
 俺は自分から言った事が発端ながらそれ以上言い返す気になれなかった。何でかわからないが、何か伊集院の言い方が余りにも切なく感じたからだ。
 耐えられない沈黙の中、お盆を持った親が伊集院を部屋の中に入れるようにしながら入ってきた。
「何、友達を立たせたままにしてるのよ。おみやげにケ―キをもらったから一緒に持ってきたからね」
 お盆を受け取りながら、俺は言った。
「俺が甘い物苦手なの知ってんだろ? 伊集院の分だけでよかったのに」
「大丈夫よ。用意が出来る間に味見をしたけど、食べれない甘さじゃなかったから。……じゃあ、遠慮しないでゆっくりしていていってね」
 親は言う事だけいうと、部屋から出ていってしまった。
 そのあっけらかんとした親の態度と、うぬぼれかもしれないがわざわざ甘くないケ―キを持ってきてくれた事に毒気を抜かれた俺は
「立ち話もなんだから座れよ。切角来てくれたのに嫌味を言って悪かったな。お前の言う通りさみしい誕生日だったから誰かにやつあたりをしたかったんだ」
と言った。
 そして、飾りとして置いてあるだけのビ―ズクッションを伊集院のために置き、お盆もその近くに置いた。お盆には二人分の紅茶とケ―キが置いてあった。
 俺の態度の変化に伊集院は戸惑ってたみたいだが、いつまでも立っていても仕方ないと思ったらしく座った。
「遠慮なく座らせてもらうよ。……僕の方こそ大人げない態度をとってすまなかったね。実は僕もやつあたりをしたかったんだよ」
 思ってもいなかった素直な伊集院の態度に俺は驚いてしまった。
「いいさ。今回の事に関しては完全にお互い様だしな。で、改めて聞くけどさ。何で今日に来たんだよ。マジで忙しいんだろ?」
 俺は嫌味でもちゃかしでもなく真剣に伊集院に聞いた。
 その途端、奴のカップを取ろうとしてた手が止まった。
「答えにくいなら今はいいぜ。最終的にはちゃんと聞かせてほしいけどさ」
 俺もカップを手にとり紅茶を飲み、ケ―キを食べた。親の言う通りそのケ―キは俺でも食べれる甘さだった。
 伊集院と言えば黙ったまま、飲食をしてるだけで口を開こうとしない。
 俺も黙って食べ物を片付けてたが、その後の手持ちぶたさが耐えられなくて俺からまた口を開いた。
「そうだ、伊集院。誕生日おめでとうな。俺なんかからもらっても嬉しくないと思うが、一応お前のために買った奴だからやるよ」
 こんな形で渡す事になるとは思わなかったプレゼントを取り出し、伊集院に手渡した。
 手に持ったままの伊集院に、俺は余計な心配をしてしまう。迷惑だっただろうかと。
「迷惑だったら……」
 最後まで言う前に
「ありがとう。ありがたくもらうよ」
という伊集院の言葉にさえぎられた。
 伊集院のその言葉に俺は再び驚いた。素直に受け取ってもらえるとは全く思ってなかったから。嫌味つきでは受け取ってもらえるかな?とは思ってたが……。
「どうしたのかね? 僕が素直に礼を言ったのがそんなに珍しいかい?」
「珍しいよ。だって、俺達は顔を合わせれば嫌味の応酬だろ? 今までの高校生活の間、ずっと。現に今日だってそうだった訳だし……」
 俺のその素直な言葉に、伊集院も素直に返してくる。
「そうだね。君の言う通り、顔を合わせれば嫌味を言ってた」
 そして、一人言のように小さく続けた。
「……本当は……こんな事をしない方が心残りもなくいなくなれるかもしれないけど。余計な感傷は本当は必要ない事かもしれないから」
 そう言った伊集院が目の前からいなくなりそうな気がしてしまい、俺はせまる勢いで
「いなくなるってどういう意味だよ。お前、何を隠してんだ? だから、人に囲まれててもさみしそうにしてんのか? 抱えてる物が大きいから」
と言っていた。ついでに今までのもやもやしてた思いもぶつけて。 俺の言葉に伊集院は今度は驚きの表情を隠さなかった。そして、そのまま嬉しそうにほほえんだ。
「伊集院?」
 俺は伊集院の行動の意味が全くわからなくなって、伊集院を見た。
「すまない」
 伊集院は一言謝った後、改めて口を開いた。
「君が……そこまで僕を見てくれてたとは思ってなかったから驚いてしまったんだよ。誰にもばれないように隠してきたからね。その事をわかっただけでも今日、ここに来た価値はあったよ」
 そして、部屋の時計を見て伊集院は立ち上がった。
「すまないが、これで失礼させてもらうよ。立ち去りずらいがいつまでも行方をくらましている訳にはいかないんでね」
「そうだな。俺と違ってお前は忙しいもんな。来てくれて嬉しかったよ」
 さみしさを感じながらも俺も立ち上がって言った。
「そう言えば……最初の君の質問の答えだが、僕がわざわざ来たのは君と誕生日を祝いたかっただけだよ。君と僕と二人の誕生日を……」
 思ってもいなかった伊集院の言葉に、驚いて何も言えなくなってしまった俺に
「誕生日おめでとう。迷惑かもしれないが、僕からのプレゼントだ。今までの中で一番いい誕生日だったよ、ありがとう」
 伊集院は俺に隠し持ってたプレゼントを手渡すと、俺を残して部屋から出ていってしまった。
 俺は思ってもいなかった事に見送りをする事を忘れ、しばらくしてからやっと伊集院からのプレゼントを開けた。
 中身は高価そうな万年筆とサポ―タ―だった。
 何か奇妙な取り合わせと思ったが、どちらも俺に必要な物なんでありがたく使わせてもらう事にした。
 それにしても、今回の伊集院の訪問は謎だらけだった。来る事自体からいつもの奴ではなかったし……といっても本当のあいつがどんな奴か完全には理解してないと思うが……謎めい発言に思ってもなかった言動、全てがいつもと何か違うかったような気がする。
 気にはなったが、すぐにわかる問題でもなく考えてる内に晩飯となってしまった。

 謎の解けないまま、時間は過ぎ、あっという間に卒業式の日となった。
 俺は詩織からのバスケシュ―ズと伊集院からのサポ―タ―のお陰もあってか、インタ―ハイで優勝する事が出来たので、アメリカに留学が決まってる。
 噂によれば伊集院もアメリカに留学が決まってるらしい。
 もしかして一番最大の謎である“いなくなる”という発言は、その事を指してたんだろうかとも考えた事があったんだが、そんな意味じゃないような気がしてならなかった。もっと大きな意味でのようなと思っても、その意味がどんなかまでは想像もつかなかった。
 無事、卒業式も終わり、別れを惜しみながらも帰っていく生徒の中、俺は一人校内をさまよってた。
(いないのか……もう帰ったのかな? 何だか忙しいみたいだもんな)
 探してた人間を見つけられなかった俺は誰もいなくなった教室に戻ってきた。
 荷物を取って帰ろうとした時、空っぽな筈の机の中に、朝には入ってなかった封筒をみつけた。
 その封筒の中にはただ一言
〈伝説の樹の下で待ってます〉
と書かれてあったので、俺は驚いた。入学した当初に伝説の樹の事は聞いて知ってたが、まさか自分が呼び出されるとは思っていなかったからだ。
 送り主に心あたりはなかったが、それでも俺は待たせていけないとだけ思い、走って伝説の樹の下へと向かった。

 息をきらせながら、伝説の樹の下にたどり着いた俺は息を整えながら手紙の主を待った。
 少しの間の後、樹の陰から俺の前に姿を見せたのは、女生徒でなくなぜかいつもと少し感じが違う伊集院だった。
 どう違うのかはっきりとは俺も説明は出来ないのだが、全体的に体形がふっくらとしてて顔がいつもよりも白い気がした。
「伊集院……お前だったのか? 俺に手紙をくれたのは。……俺も探してたんだぜ。どうしても卒業前に聞いておきたい事があったからさ」
 伊集院の登場に驚きながらもどこかで納得してる自分を俺は感じてた。そして、卒業する前に会えた事を喜んでた。もやもやした気持ちを抱えたまま卒業はしたくなかったからだ。
 俺の反応に伊集院は黙ったままでいた。多分、俺がこんな反応をするとは夢にも思ってなかったんだろう。
 俺は根気よく伊集院が口を開くのを待った。
 数分間の沈黙の後、ようやく伊集院は
「……君が僕に聞きたいのはなぜ“いなくなる”という発言をしたか?だろ?」
と言ってきた。
「ああ。……何回考えてみてもさ、その理由が留学というちっぽけな理由なんかじゃなくて、もっと根本的な物じゃないかと思えてくるんだよ。何でかは全く説明できないんだけどさ」
 俺のその言葉に伊集院は再び驚いた表情をした。
 そして、小さく聞こえるか聞こえないかの声で
「やっぱり見ててくれたんだ」
とつぶやいた後、伊集院は言った。
「君の言う通り、僕が“いなくなる”と言ったのはそんな一時的な理由なんかじゃない」
 はっきりと俺の言葉を肯定した後、一瞬迷いの表情をみせてから
「……信じてもらえないと思うが、君の目の前にいる僕は僕であって僕ではない。なぜなら本来の伊集院レイは僕ではなく私だから」
と言い、勢いよく自分の髪を束ねてたゴムを外した。そして、伊集院がその長い髪をきれいに流すと、そこにいるのは男性ではなく男子の制服を着た女性となった。
 それと同時に、今まで感じてた違和感がなくなった。それは服で抑えられていてもわかる胸とうっすらとされた化粧のためであった。
 黙ったままの俺に伊集院いや伊集院さんは言葉を続けた。
「私が“いなくなる”と言ってたのは男の伊集院レイ。
高校卒業までの仮の姿で、あなた達とも高校だけの付き合いと決められてたの。
だから、わざと嫌われるように嫌味を言い続け、親しい人を作らないようにしてた。
それなのに、あなたは電話をしてくれ、助けにも来てくれた。
実は……
今まで他の人とは思い出を作りたいと思った事はなかった。高校までの付き合いだからと割り切れたから。
だけど、あなたとだけは思い出を作りたかった。感じた想いを無駄にしたくなかったから」
 一気にそこまで話すと伊集院さんは黙って俺を見た。
「だから、この前の誕生日の時、わざわざ時間を作って俺に会いに来てくれたのか……」
 俺のつぶやきに伊集院さんはうなずいた。
「迷惑でも思い出が欲しかったから。そして、本当はあの誕生日だけのつもりだったの。でも、あの時のあなたの言葉でかけてみたいと思ってしまったの。私を見てくれたあなたに……」
 伊集院さんの一途な視線に俺は圧倒されながらも言った。
「かけ? もしかしてこの呼び出しの事?」
「そう……もしあなたが男の姿で現れた私に優しい対応をしてくれたら、あなただけには本当の事を伝えようと決めたの。私の想いと共に。そしたら、それ以上の事をあなたはしてくれた。……だから、嬉しくて言葉が出なかったの」
 その言葉でようやく先程の伊集院さんが黙った訳を理解する事が出来た。だからこそ、俺は伊集院さんが口を開く前に言った。
「……多分、俺は君の思ってる程いい奴じゃないぜ。去年のパ―ティに行かなかったのだって、醜い嫉妬からだしな。だから、このままいい思い出のままいた方が君のためだと思う。俺以上の奴なんてくさる程いるんだから」
 俺のその言葉を伊集院さんは即座に否定した。
「嫌です。この想いを思い出だけにするなんて。あなたが言う事でもそれだけは聞きたくない! 家に反発してでも貫き通したい想いだから。それに、悪い人なら自分がいい人じゃないなんて言うとは私は思わないから」
 きっぱりした口調と想いのこもった視線に圧倒され、後は何も言えなかった。それは多分、俺がこんな発言をした理由、これから起こりうるであろういろんな困難から逃げるためと彼女の想いが余りにも一途でそれを受け止められる自信がなかったからいう事が自分でわかってたからかもしれない。
 黙ってしまった俺を肯定の意味でとらえたのか伊集院さんは改まって言ってきた。
「迷惑かもしれないし、気づいてるだろうけど、私はあなたが好きです。どんな返事でもいいから返事を聞かせてください」
 真剣な眼差しに俺は即座には返事が出来なかった。だけど、ここでごまかしたら彼女の想いを裏切る事になる。俺は必死で考え、出た結論を言葉にした。
「伊集院さん、思ってもなかった事でなんて言えばいいか全くわからないけど、気持ちはすごく嬉しいよ。正直な話、何で俺がと思うし、君の気持ちに答えられる自信も全くない。けど、君の支えになりたい、一緒の時を過ごしてみたいという思いはあるんだ。そんなんでもいいなら君の想いを受け止めるよ」
 その俺の言葉に伊集院さんは黙りこんでしまった。その様子に、もしかしたら返事としては一番酷な返事を俺はしたかもしれないと思ったが、下手に嘘をつくよりはと、その思いを胸の奥にしまい、彼女の返事を待った。
「……それは同情からきた言葉じゃないですよね? 普通とは違う私に対する」
 ポツンとつぶやいた伊集院さんのその言葉を俺は即座に否定した。
「それは違うよ。多分、同情ならこんなきつい事は言わないと思う。つこうと思えば嘘なんていくらでもつけるんだし」
「それなら私の想いを受け止めてください。いつか同じ気持ちになると信じてますから」
 伊集院さんのその言葉に俺はしっかりうなずいた。
「ああ、俺もそうなると信じるよ」
「はい、待ってます」
 そう言いながら、伊集院さんが浮かべたその笑顔に、そうなる日も近いかな?と何となく思った。それ程に彼女のその笑顔は素敵で可愛かった。

 その後、伊集院さん、レイがアメリカに出発する一週間後まで時間の許す限り会い、親交を深めていった。わかってた事だが、思ってた以上に俺達はお互いの事をしらなすぎた。まあ、時間はたっぷりあるのだから、無理してまでは知り合う事はしなかったが、会う度にお互いの事を話してたのは確かだった。
 そして、アメリカに向かうレイを俺一人が見送った後、今度は俺がアメリカに行く準備をした。レイと違って物が少なかったので、あっという間に行く準備は出来たが……。
 それにしても、俺がアメリカ留学のチャンスを物にしてたお陰で長遠距離恋愛にはならずにすんだのはよかった。この状態で余りにも会えないでいるのは俺的にはすごく不安だったからだ。といっても広いアメリカの事だから普通でいう所の遠距離恋愛程は離れてたが……その距離の差は伊集院家の自家用ヘリを使って、毎週のようにあっていたので、余り気にならずにすんだ。

 そんなこんなで時は過ぎていき、再び夏がやってきた。
 二人での相談の上、日本に帰国はしても、自分達の誕生日には二人で過ごすため、またアメリカに戻ってきてた。
 誕生日の当日。俺はアパ―トに迎えに来たヘリに乗って、レイの家にやってきた。いつもなら迎えに来てくれるレイがこない事に疑問を感じながら、俺は勝手知ったる家の中へと入ってた。
 どこからか流れてくるおいしそうな匂いに向かって歩いてくと、そこはテラスで白の清潔感あふれるエプロンを着たレイがテ―ブル一杯に料理を並べてた。
「いらっしゃい。予定通りだったわね」
 俺の姿を見つけたレイはそう言いながら、俺のためにイスをひいてくれた。
「もしかしてこの料理は全て君が?」
 イスに腰掛けながら俺はレイに聞いた。
「そうよ……と言いたいんだけど、さすがに全てはね。でも、ほとんどは作ったわよ。あなたと私の二人の誕生日を祝うための料理だから」
 レイはエプロンを外し、俺の真向かいの席に座りながらほほえんだ。
 いつもの事ながらレイの笑顔は俺の心をどきどきさせる。こういう時に、まだレイには伝えてないないが、とっくの昔に俺の心がレイに対する想いで一杯になってる事を感じてしまう。
「じゃあ、乾杯しましょう」
 自分と俺のグラスにシャンパンを注いだレイは、自分のグラスを持ちながら俺の心を知ってか知らずでか、ほほえんだ。
 どきどきしたままの俺の心をごまかすように
「何に乾杯するんだ?」
とグラスを持ち上げながら、俺は聞いた。
「そうね。……二人の誕生日に対してと、ここに二人でいる事に感謝の意味でかな? 記念日、特に自分だけの記念日に好きな人と過ごせる程幸せな事はないと思うから。しかも同じ日に生まれてるから特に」
「……そうだな。同じ日に生まれてなければ、君とこの場にいなかったかもしれないしな。記念日に一緒にいる事に対してはわかるようでわからないんだけどな」
 俺の正直な感想に、レイは首をかしげた。
「そうなの? 私だけなのかな? まあ、いいわ。乾杯しましょう」
 レイはにっこり笑うと、さっきよりも高くグラスをかかげ、言った。
「あなたと二人でいれる事に」
「君と同じ日に生まれた運命に」
「乾杯」
〈カチン〉
 グラス同士を両方から打ち合わせ、お互いにシャンパンを飲みほした。
「さあ、どんどん食べてね。腕によりをかけて作ったから」
 レイのその言葉を合図に、近況報告をしながらテ―ブルの料理を食べだした。
 料理がなくなった時、レイは言ってきた。
「中に移動しない? 片付けはしてくれる事になってるから」
「そうだな」
 俺はレイに誘われるまま、応接間に移動した。
 そこにはケ―キとティ―セットがちゃんと用意されてあり、レイは手際よくお茶をいれ、ケ―キを切り分けてくれた。
「今年は私が焼いたから、もしかしたら好みの味じゃないかもしれないけど……」
 レイのその言葉に去年のケ―キが俺の好みに合わせて持ってきてくれた事を確信した。もしかしたら?とは思ってたけど、あの時点では俺のために何かをしてくれるというレイというのは想像が出来なかったから。
「いつもありがとうな。俺は何も君にしてあげれてないのに、してくれて」
「気にしないで。好きな人に何かをしてあげられる程、幸せな事はないから」
 俺の隣で、本当に幸せそうにほほえんでるレイに、俺は持ってきたプレゼントをポケットから取り出し、手渡した。今以上にレイに喜んでほしくて……。
「レイ、誕生日おめでとうな。大した代物じゃないけど、俺の気持ちだ。受け取ってくれ」
 差し出したプレゼントの形と大きさに中身が想像出来たのか、驚いた表情を浮かべながらレイは受け取ってくれた。
「開けていい?」
 早く開けたくてうずうずしてる感じのレイに俺はかわいいなと思いながら
「いいよ」
と答えた。
 その途端、早速包装紙を破り、出てきた箱から中身を取り出したレイは中身を身に付けながら聞いてきた。
「本当に私がこんな物もらっていいの? 指輪なんてもらったらもう何を言われてもあきらめられなくなるよ」
「あきらめられたら今度は俺が困るよ。俺にとって君は本当の意味で大切な人なんだから。そうじゃないと指輪を送ろうなんて思わないよ」
 俺のその言葉に、レイは驚きの表情を浮かべ、そして、とびきりの笑顔を浮かべた。
「嬉しい。指輪もすごく嬉しいけど、それ以上にあなたの言葉が嬉しい。気持ちだけはどうしてもわからないから」
「俺もその言葉が嬉しいよ。勝手ばっかりやってるからいつ愛想をつかれてもおかしくないと思ってたから」
 思わず出てしまった本心にレイは
「大丈夫よ。知る度にあなたが好きだから。不安なら毎日でも言うわ。今までは嫌われるのが怖くて余り言えなかったけど、それは間違いだったと思うから」
と笑顔で言ってくれた。
「俺も言うよ。これからは。態度だけじゃ伝わらない事の方が多いという事がわかったから。でも、たまには……」
 予告もなくレイに近づくと、軽く唇を重ね合わせた。
「行動も必要だろ?」
 ウィンクをしながらそう言うと、レイもほほえみながら
「そうね。言葉だけじゃなく行動も必要よね。大好きよ」
と言い、抱きついてきた。
 ようやく今回の事で関係が一歩前進した気がした。今まではまだ名前だけの恋人関係だった気がするから。
 そして、多分、これからが本当のスタ―トなのかもしれない。まだまだ信頼関係が出来てるとは胸を張って言えないし、不安はどうしてもなくならないから。ただお互いがお互いを想いあえれば必ず永遠の愛になるとそう思う。
 照れくさくてまだまだその事はレイには言えないけどな。

END
10/03/17 18:32更新 / 旧作品集

■作者メッセージ
この話は、伊集院レイ推進事業団で誕生日祝いに載せて頂いた作品です。
そして、当時読んでくれた読者さんの反応が一番悪かった話です。
今の旦那の前の人と別れた後に書いた話で、そのときの考えがかなり反映された話だったなと、思います。
これからもいろんなレイ様の恋愛模様を書いていきたいですね。

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