雑記

読切小説
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予期せぬ出会い
 屋敷の者も寝静まった真夜中。そっと抜け出して行く夜の海岸。
気持ちいい夜風にすさんだ心も和らいでくる。
 今までも何回かここにこういう風に涼みに来ていたけど、高校に入学してからその回数は増えた。
 多分、それは彼のせい。叶わぬ想いを彼に持ってしまったから。
「はああ」
 階段に腰掛けため息つく。
 嫌味を言えば、彼に嫌われて、この想いはなくなっていくだろうと思っていたのに一向になくなる気配がない。それ所かたまに見せる優しさに、ますます心惹かれてしまう。
「はああ」
 再びついてしまうため息。
「どうしたの? 何か悩み事?」
 背後からふいに声を掛けられ、驚きで何とも言えなくなる。
 振り向くと、普段の彼女から考えられない優しい笑みを浮かべた鏡さんがいた。
「鏡さん」
 ふと呟いてしまった私に、鏡さんは困ったような顔をする。
「あら、あなた。私を知っているの? 」
 困り果てた鏡さんに、私はとっさに言う。私も自分の正体がばれたらまずいから気づかれないように…。
「はい、きらめき高校の鏡さんは私の学校でも有名ですから。確かファンクラブもあるんですよね?」
 きらめき高校の生徒ではないと意思表示をする私に、鏡さんは安堵のため息をつく。
「ええ。入学した時、すぐに出来たわ。きらめき高校以外にも有名だなんて美しさも罪よね〜」
 鏡さんらしい事を言うと、ふと真剣な表情に戻ってお願いしてくる。
「ねえ、あなた。悪いんだけど、ここで私と出会った事、内緒にして頂けないかしら? ここで私が出会える事、知られたらファンのみんなが押し寄せてくるかもしれないから。そしたら、あなたも迷惑でしょう?」
 それに、私は迷わず頷く。頼まれなくても私は話さないけど、何かを不安がってる鏡さんを安心させたかったから。
「ありがとう、感謝するわ。今日は急ぐから帰るけど、また会ったら話しましょうね」
 鏡さんはそう言うと、慌てた様子で立ち去っていってしまった。
(どうして、こんな時間にいたんだろう)
 そんな事を考えながら私も屋敷に戻る。長い間いないと探し回られる危険があるから。
(もう会えないでしょうけど、あなたも頑張ってね、鏡さん)
 何か隠し事をしているらしい鏡さんに心の中でエールを送り、その日は寝付いた。
(もう会わないだろう)
と思っていたのに、それから何度も鏡さんと海岸であった。
 いつもため息をついている私を心配そうに見ながらもそっとしておいてくれる彼女の配慮がすごく嬉しい。
 まあ、私もなぜ彼女がいつもこんな時間に買い物袋を下げているか聞かないから、お互い様かもしれないけど、ね。

 二人で夜、いるのが日常になったある日。私は鏡さんに誘われた。
「ねえ、よかったら私の家に一度来ない? こんな所でいるのも気が滅入るだけでしょ? にぎやかだけど、気分転換になると思うわ」
 その誘いに、一瞬戸惑ったが、受ける事にした。帰りが遅くなる事が少し気になったけど、どこかにいる外井が伝えてくれるだろうと思ったから。
「うん、行くわ」
「汚い所だけど、気にしないでね」
 そう念を押されて連れて行かれた所は海岸からかなり近いところにある一軒家だった。一軒家といっても平屋の古い家なので、彼女が私に内緒にしておくように頼んだ理由がわかった気がした。
「最初は戸惑うかもしれないけど、いい子達だから」
 鏡さんは私にそう言うと、玄関を開けた。
「ただいま〜」
 明るく言う鏡さんに、部屋の中にいた子供達がそれぞれ鏡さんに言葉を返す。弟達らしいけど、鏡さんが彼らに好かれているのが、見ていてよくわかる。
「お姉ちゃん、このお姉ちゃんは誰?」
「お姉ちゃんの友達よ。仲良くしてあげてね」
 鏡さんがそう言った途端、私は弟達に囲まれた。
「ねえ、お姉ちゃんの名前はなんて言うの?」
 一人がそう聞いてきたので、咄嗟に
「レイよ」
と本名を言ってしまう。
 鏡さんに告げた名前とは違うので、鏡さんは怪訝そうな顔をしていたが、直接、私に聞いてくる事はしなかった。
 その後、割と遅くまで鏡さんの弟達と遊び、夜も遅いというので、帰る事になった。
 いつもの海岸まで送ってくれた鏡さんは、そこでぽつりと言った。
「どうして、本名を教えてくれなかったの? 私では信用出来ないかしら?」
 悲しそうにそう言う鏡さんに、私は慌てて言う。
「信用してない訳ではないんだけど、言えなかったの。高校卒業するまでは私の事、誰にも知られる訳にはいかないから」
 その私の言葉にますます鏡さんの表情は暗くなる。
「そう。それでも私だけに話してほしかったわ。残念だけど、今日で会うのはやめましょう。信用してくれない人に会うのは辛いから」
 鏡さんはそう言うと、止める暇もなく立ち去っていってしまった。
 私は追いかけて行きたかったけど、外井が来たので、あきらめるしかなかった。

 言葉通り、二度と鏡さんは海岸に現れる事がなかった。
 卒業も近づき、卒業すると、はれて晴れて私は女の子に戻れるのだけど、気になる事が一つだけあった。
 それは彼ではなく、鏡さんの事。傷つけたまま、卒業してしまう事がどうしても私には出来なかった。
 私は卒業式の当日、お母様が内緒で作ってくださった制服を鞄に入れると、卒業式で誰も教室からいなくなってから、鏡さんの机に手紙を忍ばせた。
“屋上で待っています。レイ”
という内容の手紙を…。

 卒業式終了後、来てくれるかどうか自信ないけど、わずかな期待をこめて、屋上で鏡さんを私は待った。
 そこから偶然見えてしまった、彼が伝説の樹の下に走っていく姿に私は思わずため息をついてしまった。あきらめてはいたけど、やっぱり見たくない姿だったから。
「あなた、彼が好きだったのね」
 背後から突然声をかけられ、驚いて振り向く。
「鏡さん、来てくれたの?」
「あんな別れ方をした事、私も気になっていたからね。それに、あなたの隠し事の理由も知りたかったし…。あなた、伊集院くんなんでしょ?」
 鏡さんに確信をつかれ、私は頷く。
「そうだけど…。でも、どうして…」
「あの日、悪い事したなと思って、引き返したら黒服の人と一緒にあなたがいたから。名前からしてもしかしてと思ってたけど、ね」
 そう微笑みながら言うと、鏡さんは真剣な顔に戻って言った。
「でも、あなたの口から事情を説明してくれない限り、許さないと思ったの。あなたは初めて自分の事を知って貰いたいと思った人だったから」
「ごめんなさい、鏡さん。私、嘘をつきたくなかった。けど、知られてはいけないことだったから。あの後も、何度あなたに…」
 謝り続けようとする私を鏡さんの手が止める。
「えっ?」
「いいわよ。今日、この日に打ち明けてくれたから許してあげる。本当は今日までなんでしょう? 男装をしなければいけないのは…。それなのにわざわざ着替えてまで打ち明けてくれたんだもの。許さない訳にはいかないわよ。さあ、家に行きましょう。弟達も待ってるから。詳しい事情はいつでも聞けるから」
 そう微笑むと、鏡さんは私の手を取り、屋上の扉へと向かいだした。その後は私は慌てて追いかけた。

 結局、恋は成就しなかったけど、その代わり、私は親友を手に入れた。私の事をわかって、励まし合える親友を…。
END
10/03/17 22:17更新 / 旧作品集

■作者メッセージ
らどんさんのリクで女レイちゃんと鏡さんの話です。
後書き
はう、ようやく最後まで書き上がりました。
らどんさん、こんな話になりましたけど、いかがでしたでしょうか?
こんな二人、私は理想だったりします。後、紐緒さんとレイちゃんとか。今度はその二人を書いてみたいです。
月並みですが、感想をお待ちしています。

↑これが書いたときの後書きです。
うむ。いまだに紐緒さんの話を書いていません(^_^;)
いつかは書きたいですね。

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